【感想】「はやく名探偵になりたい」鳥賊川市シリーズ初の短編集

2022年2月12日

こんにちは。つぼたっくのあおいです。

今回は東川篤哉さんの「はやく名探偵になりたい」を読んだ感想について紹介します。

鳥賊川市シリーズの6作目で、シリーズ初の短編集です。5作目まではすべて長編推理小説だったので、一風変わって新鮮でした。

どの作品もユーモア溢れるミステリーでしたが、前作よりもユーモアの方が強めだなと感じました。感覚的にはユーモア7:ミステリ3くらいの比率でしょうか。

どの話も読みやすいので、小説をあまり読まない人には特にオススメの本です。

自分の1番好きな作家さんの一番好きなシリーズなので、めちゃくちゃ肯定的な感想になると思いますが、紹介していきます。

ネタバレは無しです!

書籍概要

題名:はやく名探偵になりたい

著者:東川篤哉

初版発行日:2014年1月20日

出版社:光文社

「はやく名探偵になりたい」の特徴

前後関係や前作とのつながりは無し

本作は鳥賊川市シリーズの6作目ですが、前作との関係はほとんどありません。おそらく時系列的には5作目の後なんですが、名言はされていないです。5つの短編全てが独立した話となっているので、前作までの知識や流れなどは知らなくても楽しめると思います。

ただ、、個人的には1~5作目のどれかを読んでから6作目の「はやく名探偵になりたい」を読んで欲しいと思っています。

というのも、主人公の鵜飼や流平の人物像についての説明が前作に比べて少ないからです。ある程度の説明とやり取りで、人物像を把握することはできると思いますが、前作を読んでいた方が、受け入れやすいと思います。

シリーズ物はキャラクターの性格や人物像も重要なポイントなので、この本から読み始めた人は、なんだこの人たちは。となる可能性もありますしね。

特に探偵の鵜飼さんは個性的なキャラクターなので、1~5作目を読んでからの方が、6作目の短編集も楽しめると思います。

主要キャラは鵜飼さんと流平のみ

本作に出てくる主要キャラは鵜飼探偵とその助手の流平君のみです。朱美さん、志木刑事、砂川警部、十乗寺さくら、などなど前作までに多々登場していたキャラクターが登場しません。

キャラクター同士のユーモア溢れる掛け合いや人間関係も鳥賊川市シリーズの魅力の1つなので、少し寂しかったです。

朱美さんが推しの私としては、残念ですね(笑)短編となるとどうしても登場人物は限られてきてしまうので仕方ないですが。

まあ、鵜飼さんも流平もキャラが濃いので、その二人だけでも満足感はありました。

ただ、主要キャラの登場は無かったのですが、それぞれの話で登場する人物も個性的なキャラが多くて十分楽しめました。鵜飼さんと流平の掛け合いも安定して面白く、新キャラたちとの掛け合いもユーモアやギャグが満載で、満足感は高かったです。

偶然の出来事が多め

本作に限らず、鳥賊川市シリーズは偶然の出来事が多々発生します。計画的な現象と、偶然が絶妙に混ざり、事件をややこしくする。といった展開が良くあるのですが、本作は偶然が多めのように感じました。

自分は偶然な事象に大きく左右されるミステリーには抵抗が無いので、普通に楽しめますが、好き嫌いは別れる点かなと思います。

ただ、偶然でも何だろうと、その事象が発生したらそれは事実なのでそれを踏まえた作品を楽しむ心掛けは大切だと思います。ご都合主義とか現実味がないという意見を良く耳にしますが、フィクションなんてそんなものですよね。

事実は小説よりも奇なりというように、現実世界でもいろんなことが起こるので、小説内で偶然的なことが事件を大きく左右しても不思議ではないと考えています。

まあこれは好みなので、そういうのが苦手な人はお勧めできないかもですね。

感想

本作は短編集なので、それぞれあらすじと感想について簡単に紹介していきます。

藤枝邸の完全なる密室

タイトルの通り、密室殺人の話です。遺産目当てで、資産家の叔父を殺害するといった設定となります。

この話は、終始犯人の視点から語られます。密室殺人を計画、準備するところから、犯行に及ぶところ、探偵に暴かれるところまで、全て犯人の視点から語られます。

そのため、トリックや動機、殺害方法など読者は全て分かった上で話が進んでいきます。犯人視点で最後まで進んでいくのはとても新鮮でした。

殺害が完了した後に鵜飼探偵がやってくるのですが、相変わらずのらりくらりと犯人を追い詰めていきます。犯人も鵜飼手探偵の不審な挙動に振り回されっぱなしでした。この辺りはやはり前作を読んでおいた方が良いなと特に感じましたね。

結局最後は密室殺人のトリックを解かずに犯人を当ててしまいます。色々な不運が重なった結果ですが、読んでいて少し同情するくらい犯人が可哀想でした。まあ犯罪者なので自業自得ですが(笑)

詳しくは言えないですが、オチも完璧で落語のような話でした。短編集の1話目でグッと惹きつけられました。

時速四十キロの密室

探偵が不倫調査をしている、不倫相手が不審な死を遂げるといった話です。設定はごく普通なのですが、殺害方法がぶっ飛んでいます。

40キロで走り続けるトラックの荷台で殺人が起きるという、一風変わった密室殺人です。完全に閉鎖された空間ではなく、状況的に見て密室としている感じですね。

簡単に言うと、トラックの荷台に1人でいた男が、いつの間にか死んでいた。信号などで止まることもなく、常に走り続けていたため、途中で誰かが乗り込むことは不可能。といった状況です。

ここまでの説明でもわかると思うのですが、この話が一番現実離れしていましたね。

トリックは奇想天外で面白いと思いいましたが、現実味はちょっと無いかなという感想です。

七つのビールケースの問題

鵜飼さんと流平は依頼人の家に訪問するのですが、依頼人からは留守の様子。時間つぶしに近くの酒屋によると、ビールケースが盗まれていることが発覚。ビールケースが盗まれた謎が、他の事件にもつながっていく話です。

この話はなかなかしっかりとしたミステリーです。一見関係なさそうな事象が繋がっていくというようなオーソドックスな展開でした。

流平の推理もちょっとだけ活躍するといった珍しい現象も起きます。

トリックはとても練られており面白く、伏線回収などしっかりとしたミステリー要素もありました。

推理パートでもしっかり楽しませてくれるので、短編にしては読みごたえがあると感じました。

雀の森の異常な夜

鳥賊川市の会社の社長の孫娘の絵里に呼び出された流平は夜の森を2人で散歩します。ワンチャンあるかと胸を躍らせている流平の心とは裏腹に、絵里は何か訳ありの様子。

その後、2人は森の中で殺人が行われている現場を目撃する(暗いため犯人の顔は見えてない)。被害者は犯人に車いすに乗せて運ばれ、森の先の崖に落とされたと考えられる。といった流れです。

この話は本格的なミステリーがギュッと短編に収めたような感じです。登場人物も多いため容疑者も多く、犯人は誰なんだ?ということを推理する展開なので、一番ミステリー感が強かったです。

犯行現場を目撃しているということもあり、その時間のアリバイを聴収したり、動機を探ったりとオーソドックスな展開が続きます。

ただ、最後はそういうことだったのか!という裏切りの展開もあるので、面白かったです。

宝石泥棒と母の悲しみ

いつもの鳥賊川市シリーズとは一風変わったテイストの話でした。特に最初の方は雰囲気が全く違ったので少し困惑したくらいです。鵜飼さんが登場すると一気にいつもの世界観に逆戻りですが。

1話目と同様に、鵜飼さんや流平以外の人物からの視点で物語が進みます。ちょっと変わった人物の視点は斬新でした。こういうテイストも悪くないですね。5つの話の中では最もピースフルな話です。

短い話の中でもミスリードがたくさんあったり、最後には家族愛を感じほっこりとすることもできました。

ユーモアあり、ミステリーあり、衝撃もあり、最後には愛で溢れる。これほどの展開をこの短さでまとめられる技術はすごいと感嘆しました。

短編小説ならではの設定なので、たまには短編小説も悪くないなと感じさせてくれた作品ですね。

まとめ

今回は東川篤哉さんの「はやく名探偵になりたい」について紹介しました。

どの話もユーモア溢れるミステリで、個性的なキャラクターがたくさん登場します。鳥賊川市シリーズ初の短編集でしたが、どの話もテイストが違っていて幅広く楽しめました。

トリックも割りと分かりやすく、ユーモアが雰囲気をポップにしてくれているので読みやすいと思います。短編集でそれぞれが短い話なのでミステリーや小説が苦手な人でもとっつきやすいと思います。

ただ、今までの長編小説に比べると読みごたえは物足りないかなというのが正直なところです。短編集なのでその辺りは仕方のないことなのかと思いますが、好き嫌いは結構別れるのかな。

気になった人は是非読んでみてください!

最後まで読んでいただきありがとうございました。